第2回 地域医療改革
    非現実的な「標準医師数」の見直しが急務

 昨年来世間の耳目を集めてきた、大学医学部による名義貸し問題は、地域医療行政に内在する深刻な矛盾をあぶり出す結果となったが,未だに解決の目途がつかない状態である。

 名義貸しをせざるを得ない大学院生の生活保障をどうするのか。医師を求めて医局へ寄付金を出す自治体を責めるだけですむのか。私立・国公立病院の所謂、「診療報酬不正受給」を単純な法理論で断罪することが果たして正当なのか。医者斡旋業者の介入が本当に僻地の医者不足を解消するのか。道州制による地域主義の導入はどのように地域医療を変えてゆくのか…など、多くの変数を持つ連立方程式を早急に解かねばならい、極めて困難な状況に立ち至っている。

 この連立方程式に含まれる定数の1つは,地方における医師不足の程度をどのように判定するかだ。判断の基準は2つある。1つは地域の医療ニーズを最低限満たすために、どのような医者が何人要るかという現実的判断。いま今1つは、全く非現実的な基準「標準医師数」を満たしているかどうかという、形式的法律的判断である。

 新聞・テレビの報道を観察する限り、現場の法律違反を糾弾するだけで、この連立方程式を解くための現実的提言は殆どなされていない。この連立方程式の有効な解は、定数を現実的に設定することでしか得られまいと思う。

 今朝の新聞(2003年12月20日・読売新聞および北海道新聞)では,「北海道大学医学部の医局が、過去5年間に1億円を超える寄付金を自治体から受けていた」と報道し、医学部長のコメントを伝えている。「医局は無くさないが、医師派遣依頼の寄付金は医学部なり病院を通すことにして透明度を高める」とのことだ。

 北海道新聞には『地域医療の今』と題する連載記事も見られる。高額な医師の人件費が赤字の主因で、道内の公立医療機関の殆どが赤字だと言う。そして、診療報酬の引き下げ、過疎による患者減、不採算部門の存在、設備投資が順次原因として挙げられている。

                      
(イラスト:Yurie Okada)

 赤字であっても、公立病院は財政補助があるからやって来られた。だが、小生の病院のような私的病院には補助金は付かない。赤字になれば消えるしかない。こうして、ますます「医療過疎」は進むことになるが、「そんなことは私的病院の責任ではない」と言ってはいられない。私的病院といえども、病院は社会資産だ。赤字を避けるにはどうすればよいか。標準医師数の人件費など賄えるほどの診療報酬は設定されていないから、現実的に必要な最小限の医師数で頑張るしかない。他方、医療法を守らねば各種の届出が受理されないから、現実的解決法として名義を借りてきたわけだ。

 名義を借りて人件費をけちり、私腹を肥やしているかのごとき印象を与える報道が多いが、実態を正確に伝えてはいない。さらに読売新聞の社説では、「医療費の膨張体質こそが問題」と、診療報酬をもっと下げるべきだと主張を展開し、急激に膨れ上がる老人医療費の抑制が取り分け重要である、としている。さらに、医療の合理化を進め株式会社の参入も認めるべきだとも主張しているが、この主張と、補助金も貰わずに地域医療を守ってきた病院を糾弾することに整合性があるのだろうか。
 「医療の合理化を大胆に進める必要がある」との主張には小生も賛成だが、"合理化"とは、同じ仕事を少ない人数でこなすことだ。不合理な法律で医師数が決められる環境下で、どうして合理化を進められようか。

 「北海道を道州制の特区として、医療の分野でも標準医師数の見直しをする」との言葉が、行政からようやく出てきた。合理化を先取りして工夫を重ねてきた地域の中小病院を、「不正請求」の烙印を押して執拗に糾弾を続けるだけでは、無責任のそしりを免れまい。
 (December 2003)

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